クリスマスイヴである今日は街はいつにも増してキラキラと輝いて、恋人達で溢れている。 そんな中俺は残された時間の少なさに戸惑いながらも確かに彼女の手を引いてこの街を歩いていて 彼女はそんな俺の想いに気付いているのかいないのか、ただ嬉しそうにきらきらと瞳を輝かせて俺の手を握っている。 傍から見たら俺達は、恋人同士に見えるのだろうか。 |
| The sixth day |
今までクリスマスイヴを女の子と過ごしたことは何度もあった。 だけどそれはどれも女の子から言ってきたことであって、計画だとかプレゼントだとかもみんな相手の子が選んで、やってくれていた。 だからなのか、正直クリスマスやイヴについて特別な思いはなくて、ただ欠伸を噛み殺しながらそれに付き合っていた。 だけど今年は初めて、本当に大切だと思える人と共に過ごすイヴ。 といっても俺達には時間があまり無いから、内心すごく焦っているわけだけど。 そんなことを知ってか知らずか、ちゃんはやっぱりどこかのんびりとしながらクッキーなんか頬張ってるわけで。 「……ちゃんって間食多くね?」 「う…だって駅前で売ってて美味しそうだったから…つい。」 確かに今日も何をするかなんてまだ決めてないわけだけど、やっぱりこうしてベンチに座ってクッキーなんて食べているこの時間さえ惜しいと思うのは仕方なくて。 ああ、俺ってやっぱり欲張りなヤツだ。 最初はちゃんと一緒にいられるそれだけでよかったのに、それが段々と欲深くなって。 好きだと思えば思うほど欲張りになって、時間が無いと知ったらもっと先の何かを欲してる。 その「何か」が一体何なのかなんて、はっきりとはわからないけれど。 「…あ。ほっぺた、クッキーのカスついてる。」 「え、うそ。」 慌てたように右の頬をこする。 俺は無言で、そっちじゃない、とでも言うように、まるで吸い寄せられるようにちゃんの左頬に顔を寄せて。 そのまま、そっとキスをする。 本当はカスなんてついていなかったし、例え付いていたとしても手で払えばいいのだけど。 でも、何故かとても、口付けたくて。 「…慈郎、くん?」 きょとんと小首をかしげる仕草は癖なのだろうか。もう何度も見た気がする。 さっきの口付けはまるで夢だったかのように、俺は何事もなかったかのようににこりと微笑んで。 「ね、ちゃん。俺さ、行きたいトコ出来た。付き合って。」 うん、と頷いた彼女の頬が少し赤らんでいたのは、きっと気のせいじゃない。 きらきら輝く街を歩いて、歩いて。 本当は近道だけどちょっと危なそうな路地裏は、通るのを止めておく。 人通りは段々と少なくなっていって、俺はぎゅっとちゃんの手を握ったまま歩き続ける。 ちゃんが歩き辛く無いようにペースを調節しながら、周りをきょろきょろと見渡しながら。 確か、一昨年の11月。その時付き合っていた彼女と一緒に行った店。 ジュエリーショップで、上品なデザインのシルバーアクセサリーが沢山あった。 後から跡部に言ったら、その店は結構有名だから覚えておけ、って怒られた。 「あ…」 突然、少しの動きにくさを感じる。 振り向いて、ちゃんが立ち止まった所為だと認識して。 どうしたのかと視線を辿れば、ジュエリーショップのショーウィンドウ。 ショーウィンドウまでは少し距離があったから、そこに飾ってあるものがシルバーリングだと理解するまでに少し時間がかかった。 「慈郎くん、見てもいい?」 嬉しそうに言うちゃんに、駄目だなんて言えるはずも理由もなく。 でも、少し小走りにショーウィンドウに近づいていくちゃんの後姿が、少しだけ遠く感じられて。 俺はその距離を消し去ろうとするかのように、小走りにちゃんの後に続く。 飾ってあったシルバーリングは、シンプルだけどキラキラと輝いていて。 これといってデザインが素晴らしいとか、高価な宝石が散りばめられてるとか、そんなことは一切なくて。 ただ、本当にシンプルに。 細いリングにキラキラと輝く丸い石が一つ、埋まっている。 ただそれだけの、何の変哲も無いリング。 でもちゃんはそれをじっと見つめて、きらきらと瞳を輝かせている。 「欲しいの?」 「えっ」 聞けば、ぎくりとしたように驚いて俺を見て。 いらない、なんて言う暇も与えずに、強引に店内に入る。 店は確かに小さくて、古ぼけているように見えたけど。 それでも、中にはショーウィンドウと同じようにキラキラと輝くシンプルなシルバーアクセサリーが沢山飾ってあった。 「じ、慈郎くん」 「欲しいんでしょ?いいよ、買ったげる。」 本当は一昨年行った有名なジュエリーショップで買うつもりだったけれど。 やっぱり、値段とか銘柄とかそんなものよりも、ちゃんが一目で気に入った(と、見ているこっちからは手に取るように分かる)もののほうが良いに決まってる。 今まで付き合ってきた女の子は、値段とか銘柄とか、人に「自慢」できるようなものばかり選んでいたけれど。 「でも…た、高いし」 「そんな高くないって。むしろシルバーリングとしては安い方だと思うけど。」 「でも」 まだ遠慮してるちゃんに構わず、お店の人からサイズ合わせのサンプルを借りて、ちゃんの指にはめていく。 13号、11号、9号。 ちゃんの指は驚くほど細くて、白くて。 今にも折れてしまいそうなほどに。 これも病気の所為なのだろうか。 なんだか胸の辺りがズキズキと傷むような気がしたけれど、それを振り払うように7号のサンプルをはめる。 指はするりとリングを通って、見た限り丁度良い感じ。 5号も試すと、やっぱり少しキツそうに見える。 店員さんに7号を頼んで、ついでに自分でもサンプルをはめてみる。 17号では少しだけキツイ。 店員さんに19号を頼んで、呆気に取られているちゃんににこりと微笑みかける。 「買ったげるよ。元々ペアリング買いに来たんだし。」 「え、じゃあ慈郎くんの行きたいとこって…ここ?」 「ううん、もうちょっと先に一度行ったことある店があるからさ。でも、ちゃんが気に入ったなら何でもいいんだ。」 店員さんがショーウィンドウに飾ってあるのと同じリングを持ってくる。 7号と19号。 直径だけでもかなり違う二つが並んでいると、なんだか変な感じだ。 ちゃんの手を取って、7号のリングをはめる。 もう一つを自分の指にもはめて。 はめる指をあえて左手の薬指にした意味を、ちゃんはわかっているだろうか。 自分の手を天にかざしたり、横から眺めたり。 色んな角度から、自分の指にはめられたリングを見て。 少し頬を赤らめながらキレイ、と呟くちゃんは本当に可愛くて。愛しくて。 店員さんがにこりと微笑んで、仲がいいですね、と笑う。 それに少し照れながらお金を払って。 ありがとう、と微笑むちゃんににこりと笑ってみせて。 手をしっかりと繋ぎなおして店を出ようとすると、ふと店員さんに呼び止められる。 「そのリングに埋められた石の意味をご存知ですか?」 小さな小さなクリスタルは、全てを清めて永遠の愛を得る。 |